Vista の字形変更122字とは?


Windws Vista の文字化け問題を扱った記事の中には、Vista の新文字セットの字形変更を122字としたものが少なからず見受けられます。
これは、マイクロソフト社の資料「MSゴシック明朝JIS04字形とJIS90字形.pdf」であげられている数字を、そのまま引用したものと思われます。
しかし、同じマイクロソフト社の「MSゴシック明朝V5.00フォントアップデート情報.pdf」とJIS X 0213 追補1 で字形変更された168字をつきあわせると、Vista の新書体の字形変更は135字であることが分かります。これは、実際に、Vista の新書体を打ち出したものでも確認できます。


では、この違いは、どこにあるのでしょうか。


なお、マイクロソフト社の資料は、下記から入手できますので、実際に確認されることをお勧めします。


Windows Vista の新文字セットの字形変更122字といわれるものと、実際の字形変更の違いを JIS X 0213 追補1 の基になった「JCS調査委員会成果報告書」の分類に即してみると、以下のようになります。

分 類 実際の変更数  122字    違 い
(3) デザイン差のあるもの 39字中8字 5字  靄、粂、隙、除外
(4) デザイン差の字形が補助漢字にあるもの 1字中0字 0字 
(5) 字形差のあるもの 100字中99字  88字  喰、餐、叟、艘、兎、牌、稗、挽、娩、芒、蠅、除外
(6) 三部首許容にかかわるもの 28字中28字 28字 
その他 ―  1字  喩、追加



ではなぜ、実際の字形変更と違う資料を作成したのでしょうか?

JIS X 0213 追補1 との関連を意図的に曖昧にしているように見えますが、なぜJIS X 0213 追補1 との対照関係を断ち切ったのか、その真意は不明です。

「MSゴシック明朝JIS04字形とJIS90字形.pdf」では、「(*)は字体差」という注記のものが96字あります。しかし、「JCS調査委員会成果報告書」の「字体差」とは異なり、根拠も示されていないため、何らかの典拠があるのか、誰かの私見に基づくものなのかもわからず、何を意図した注記なのか不明です。
(字形変更96字説はこれが根拠でしょうか)

また、「(+)はMS書体固有」という注記のものも2字ありますが、字形に特異な点は見あたらず、「筵」は追補1で字形変更されたもの、「喩」は追補1にはないものです。従来の書体が例示字形と異なっていたともとれますが、筆押さえの有無なども字形変更とした JIS X 0213 追補1 と違った解釈を、ここでもしていることになります。

このように、「MSゴシック明朝JIS04字形とJIS90字形.pdf」に基づいて字形変更を122字とすることには違和感を覚えますが、どう思われるでしょうか。



追記

「jp90」タグとの関係について

[07-02-01]
[一部加筆 07-02-02]


「MSゴシック明朝JIS04字形とJIS90字形.pdf」の122字と「jp90」タグとの関係について上記では触れませんでしたので、若干の補足をします。

「MSゴシック明朝JIS04字形とJIS90字形.pdf」で示された122字は、MSゴシック・MS明朝(ver.5.00)で「jp90」タグをサポートする文字の数です。
これは、「Windows XP で利用可能だった122文字の JIS90 字形に、'jp90' OpenType feature tag によりアクセスができる」ものとされています。(「Microsoft Windows Vista における JIS X 0213:2004(JIS2004)対応について」p.7)


本文の表のように、「jp90」タグをサポートする122字は、追補1の対応した135字のうちの121字と、追補1と無関係の1字(「喩」)です。
逆にいえば、追補1に対応した135字のうち、14字が「jp90」タグのサポート対象から外されたことになります。

この14字に関しては、「jp90」タグによる「字形の切り替え」ができません。
どの程度を文字化けと評価するのかは個人の価値基準によって一概に線引きできないとは思いますが、別字形に置き換えられるという意味で、この14字は「jp90」タグによっても文字化けするといえるでしょう。
「jp90」タグが、「JIS2004字形」を「JIS90字形」に「切り替え」るものとされているにもかかわらず、なお文字化けする文字が残るというのは、どうにも腑に落ちません。

JIS X 0213 追補1(マイクロソフト社のいう JIS2004)の例示字形の変更に対応した135字の中から、なぜ、あえて、14字を外したのか(なぜ1字を加えたのかも含めて)、残念なことに、論拠はもちろん、説明といえるものは、マイクロソフト社の「詳細資料」のなかに見つけることはできませんでした。

Windows Vista の新文字セットが、JIS X 0213 追補1 に対応したものであるというならば「jp90」タグにおいても JIS X 0213 追補1 を尊重すべきで、もし違う判断をするならばその説明をしっかりとすべきだと思います。

JIS X 0213 追補1 の基となった「JCS調査研究委員会成果報告書」の「(3)デザイン差」とも、「表外漢字字体表」の「表外漢字における字体の違いとデザインの違い」とも違う独自の基準で選択・除外しているのですからなおさらです。

間違っても、追補1に対応した実際の字形変更と混同させるようなことはあってはならず、「jp90」タグをサポートする文字の選択・除外をあえて違うものにした理由を含めて、きちんとした説明をする責任がある思います。


ちなみに、「jp90」タグをサポートする122字以外にも字形変更されたものがあるという指摘の中には、JIS X 0213 追補1 以外の書体デザイン上の変更を含めたものも見受けられます。JIS X 0213 追補1を理解していないのか、追補1の存在あるいは問題点を意図的に曖昧にして誤魔化しているのかは不明ですが、きわめて平面的な思考であるように思われます。



追記

「jp90」タグについての補足

[07-02-12]


MSゴシック・明朝(ver.5.00)で使用可能な 'jp90' タグ自体は、Registered by: Adobe とされています。


この 'jp90' タグを理解するためには、OpenType の tag (feature tag) の性格を掴んでおくことが必要ではないか思います。

例えば、小塚明朝Pro VI R (ver.6.005)の 'jp04' tag と、MSゴシック・明朝(ver.5.00)の 'jp90' tag は、一対一に対応してはいないようです。
具体的には、小塚明朝Pro VI R (ver.6.005)の JIS X 0213 追補1 の字形('jp04' tag が付いたもの)のうち、以下の例などには、対応するMSゴシック・明朝(ver.5.00)の 'jp90' tag はありません。

例(MS新書体で字形変更されたものより)


もちろん、フォントによって付けられた tag に違いはあるわけですが、MSゴシック・明朝(ver.5.00)の 'jp90' tag は、あくまでも従来字形のMSゴシック・明朝(ver.2.3)との関係で、付けられているように思われます。
つまり、MSゴシック・明朝(ver.5.00)で「Windows XP で利用可能だった122文字の JIS90 字形に、'jp90' OpenType feature tag によりアクセスができる」ということは、この122字に関しては、MSゴシック・明朝(ver.2.3)の字形に置き換えられるということで、それ以上でもそれ以下でもなく、ここから敷衍して考えることはあまり適当ではないように思われます。

この点に関しては、なお不明な点もありますので、ご教示頂けると幸いです。


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